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上の子と下の子で、アレルギーの常識が違う!? たった10年で変わった食物アレルギー予防の話

アレルギー関連情報というタイトル アレルギー関連情報

「アレルギーが心配なら、食べさせるのは遅いほうがいい」

そんな話を聞いたことはありませんか?

ところが、今は違います。食物アレルギーの予防について、医学の世界では大きな変化が起きています。

昔はできるだけ遅らせたほうがよいと考えられていたのに、今では、食品によっては適切な時期に食べ始めることが、アレルギーの発症予防につながると考えられているのです。

たった10年ほどで、ここまで考え方が変わるなんて!

上の子を育てたときに言われたことと、下の子を育てているときに言われることが違う。そんな経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。

育児の常識は、意外と変わります。

今回は、食物アレルギーの常識がどのように変わってきたのか、そして、なぜ考え方が大きく変わったのかについてお話ししたいと思います。

昔は「食べさせるのを遅らせる」が正解だった

以前は、食物アレルギーを予防するために、卵などのアレルギーを起こしやすい食品は、できるだけ遅く食べ始めたほうがよいと考えられていました。

食べ物が体に入ることでアレルギーが起きるのなら、そもそも食べさせなければよい。そう考えるのは、ある意味で自然なことですよね。

実際、2000年に米国小児科学会は、アレルギーのリスクが高い乳児について、卵などの食品の導入を遅らせる考え方を示していました。

しかし、その後の研究では、食品の導入を遅らせることで食物アレルギーを予防できるという十分な根拠は得られませんでした。2008年には、米国小児科学会も、特定の食品の導入を遅らせることでアレルギーを予防できるという考え方を支持する根拠はない、と方針を見直しています。

そして2015年、食物アレルギーの予防を大きく変える研究が発表されます。

2015年、医学の常識を変えたピーナッツの研究

2015年、英国の研究グループが、ピーナッツアレルギーの予防について画期的な研究結果を発表しました。

「LEAP研究」と呼ばれるこの研究では、重い湿疹や鶏卵アレルギーがある、生後4か月以上11か月未満の乳児640人を対象に、ピーナッツを早期から摂取するグループと、摂取を避けるグループに分け、5歳になったときのピーナッツアレルギーの発症率を調べました。

その結果、研究開始時のピーナッツの皮膚テストが陰性だった子どもでは、5歳時点でピーナッツアレルギーを発症した割合は、ピーナッツを食べていたグループで1.9%、避けていたグループで13.7%でした。

ピーナッツを食べていたグループのほうが、発症率が大幅に低かったのです。

それまでの「アレルギーが心配なら、原因になりそうな食品は遅らせよう」という発想とは、まったく逆方向の結果でした。

この研究は、アレルギーのリスクが高い乳児であっても、ピーナッツへの反応を適切に評価したうえで早期摂取を行うことが、アレルギーの発症予防につながる可能性を示したのです。

この研究を受け、米国では2017年にピーナッツアレルギー予防の指針が改訂されます。重い湿疹や鶏卵アレルギーがある乳児では、医療者による評価を踏まえ、生後4〜6か月ごろからピーナッツを含む食品を導入することが推奨されるようになりました。

「アレルギーが心配だから、食べさせない」。

それが必ずしも正解ではないことを、研究が示したのです。

そもそも、なぜ食べることがアレルギー予防になるの?

ここが、今回の話で最も面白いところです。

食物アレルギーは、体を守るはずの免疫が、本来は害のない食べ物を敵だと勘違いしてしまうことで起こります。

では、なぜそんな勘違いが起きるのでしょうか。

鍵を握るもののひとつが、皮膚と腸、それぞれの免疫の働きです。

私たちの皮膚には、外から異物が入り込むのを防ぐバリア機能があります。しかし、湿疹などで皮膚のバリアが壊れていると、環境中にある食べ物のタンパク質が皮膚から入り込みやすくなります。

そのとき、免疫が食べ物を危険なものと認識し、アレルギー反応を起こす準備をしてしまうことがあります。これが「経皮感作」です。

一方、口から食べ物が入ると、食べ物を受け入れるための免疫の仕組みが働きます。腸には、食べ物のように通常は害のないものに過剰反応しないよう、免疫を調整する働きがあるのです。これを「経口免疫寛容」といいます。

つまり、同じ食べ物でも、皮膚から入ることでアレルギーへの感作につながる一方、口から食べることで、免疫が「これは敵ではない」と学習する可能性があるということです。

たとえるなら、皮膚から入り込んだ食べ物には免疫が警戒態勢をとることがある一方、腸から入ってきた食べ物には「これは危険なものではない」と教える仕組みがある、というイメージです。

これが、食物アレルギー予防の考え方を大きく変えた背景のひとつです。

かつては、アレルギーを起こしそうな食べ物との接触を避けることが、予防につながると考えられていました。しかし、研究が進むにつれて、食品によっては適切な時期に口から摂取することが発症リスクを下げるとわかってきたのです。

もちろん、すべての食べ物を早く食べればよいという話ではありませんし、すでにアレルギーがある食品を自己判断で食べるのは危険です。それでも、「食べ物を避けることで守る」だけではなく、「適切に食べることで免疫を育てる」という考え方が登場したことは、大きな転換でした。

そして、もうひとつ忘れてはいけないのが、湿疹の治療です。

皮膚のバリア機能の低下が食物アレルギーの発症に関係するなら、湿疹をきちんと治療し、皮膚の状態を整えることにも意味があります。食べ物を避けることだけが予防ではない、ということです。

日本でも、卵の研究が大きな話題に

ピーナッツの研究は、食物アレルギー予防の考え方を大きく変えました。

そして日本でも、鶏卵アレルギーの予防について重要な研究が行われました。

2017年に発表された「PETIT研究」です。

この研究では、湿疹のある乳児を対象に、湿疹を適切に治療しながら、加熱した鶏卵を少量から段階的に摂取させる方法が検討されました。

その結果、1歳時点で鶏卵アレルギーと診断された割合は、鶏卵を摂取したグループで8%、プラセボ1を摂取したグループで38%でした。

日本で行われた研究でも、特定の条件のもとで、鶏卵の早期摂取による発症予防効果が示されたのです。

この研究を受け、日本小児アレルギー学会は2017年に、鶏卵アレルギーの発症予防に関する提言を公表しました。

ただし、この研究で行われたのは、湿疹の治療と、医療研究の手順に沿った段階的な摂取を組み合わせる方法です。家庭で自己流に卵を早く食べさせればよい、という話ではありません。

それでも、ピーナッツや鶏卵の研究を通じて、食物アレルギーの予防に対する考え方が大きく変わっていったことは確かです。

  1. ※プラセボとは?
    薬や治療の効果を確かめる研究で比較対象として使われる、見た目や味などを似せた、効果を調べたい成分を含まないもののことです。PETIT研究では、鶏卵を含まない食品がプラセボとして使われました。 ↩︎

たった10年で、こんなに変わるなんて

私の息子が離乳食を始めたのは、今から約10年前です。

当時の育児の常識と今の常識を比べると、食物アレルギーの予防に対する考え方が、ここまで大きく変わったことに驚きます。

「アレルギーが心配なら、食べさせるのを遅らせる」。

そんな発想から、「食品によっては、適切な時期に食べ始めることが予防につながる」という発想へ。

食べ物を避けることが予防になると思われていたのに、食べることが免疫の学習を助け、アレルギーの発症を防ぐ可能性がある。まさに、考え方が大きく転換したのです。

私の息子は、卵も小麦も食べられません。10歳になった今も食物アレルギーとの付き合いは続いています。だからこそ、これから生まれてくる子どもたちにとって、こうした研究の積み重ねが新しい可能性につながることを願っています。

子育てが終わったら、最新の育児情報は届かなくなる?

乳幼児期には、乳幼児健診や離乳食教室、自治体からのお知らせなど、育児情報に触れる機会がたくさんあります。

でも、子どもが大きくなるにつれて、そうした機会は少なくなっていきます。

医学の世界では研究が進み、新しい知見が積み重なっていても、その情報がすべての世代に届くわけではありません。

今、赤ちゃんを育てている人は、最新の情報を目にする機会があるかもしれません。でも、10年前、20年前に子育てをしていた人はどうでしょうか。

自分が育児をしていたころの常識が、今も変わらず正しいと思っているかもしれません。

食物アレルギーの予防に限らず、医学の常識は、研究によって変わっていきます。

たった10年で、食物アレルギー予防の考え方がここまで変わった。

医学の進歩って、すごいですよね。

というわけで、今回は、食物アレルギーの予防をめぐる「新常識」についてお話ししました。

今、子どもを育てている人にも、子どもがすっかり大きくなった人にも、これから子どもを育てる人にも。

「えっ、今はそうなっているの?」

そんな驚きを共有できたらうれしいです。

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